学術論文
学会発表
修士論文
Proceedings
指導教員
研究紹介
研究設備
研究室生
卒業研究
卒業生
卒研配属情報
研究室生専用
設備予約
予定表
Access
Links
 研究テーマ紹介 

「次世代の電子デバイスに向けた強相関電子材料の開発」


 次世代に必要とされる大容量の情報を超高速に処理する技術を確立するためには、新しい高機能の材料を開発することが必要不可欠です。材料といっても、無限ともいえる元素の組み合わせがあり、その組み合わせによって多種多様な機能を発現します。例えば電気抵抗がゼロでエネルギー・ロスなしに電気を運ぶことができる超伝導材料や、熱を電気に変えることができる熱電変換材料、あるいはモーターなどに使われる強い磁石の性質を持つ強磁性材料などがよく知られている機能性材料の例ですが、まだまだ我々の知らない高機能の材料が埋もれているに違いありません。我々の研究室ではそのような次世代の電子デバイスに応用できるような役に立つ材料を開発しようとしています。

 現在我々が研究対象としているのは、いわゆる「強相関電子材料」と呼ばれる物質群です。「強相関電子材料」では多数の電子がクーロン相互作用によりお互いに強く影響を及ぼしあいながら存在していて、このような状態は従来の材料(例えば半導体)を理論的に説明したバンド理論では理解できません。理論的な枠組みを超えた「強相関電子材料」には従来材料にはない特長があり、次世代の電子材料として大変魅力的で多くの研究者の注目を集めています。先にあげた超伝導材料のうち高い温度でも動作する高温超伝導体も「強相関電子材料」から発見されました。

 現在研究室で特に注目している機能として磁気抵抗効果があげられます。パソコンに入っているハード・ディスクの読み取りヘッドや次世代不揮発メモリーとして有望視されている磁気ランダム・アクセス・メモリー(MRAM)などに応用が期待されているものです。磁気抵抗効果とは磁場をかけた時に抵抗が変化する現象をさし、通常の金属では普通、磁場の自乗に比例したごく小さな正の磁気抵抗効果を示すのみで、これは磁場の持つエネルギーが小さいためです。これに対して、約15年程前に金属多層膜で非常に大きな負の磁気抵抗効果が発見され、巨大磁気抵抗効果(Giant Magnetoresistance : GMR効果)と呼ばれ、現在のハード・ディスクの読み取りヘッドはこのGMR素子を使っています。さらに大容量の情報記録のためには高密度化が必要となり、そのためには大きな抵抗変化をより小さな磁場で起こす材料を見出さなければなりません。我々の研究室で発見したペロブスカイト型マンガン酸化物ではGMR素子の抵抗変化に比べてさらに大きな磁気抵抗値が得られており、より巨大な磁気抵抗効果を意味するコロサル磁気抵抗効果(Colossal Magnetoresistance : CMR効果)とも呼ばれています。実用化のためには動作温度が低いことやデバイス形成のための薄膜化技術が確立していないことなど多くの課題が残されていますが、次元性を制御したトンネル磁気抵抗効果(TMR効果)を利用するなどして展開を試みています。

 また、ペロブスカイト型マンガン酸化物の魅力は、ただ単に磁気抵抗の値が大きいということだけでなく、電子の内部自由度すなわちスピンと電荷それに電子軌道という3つの自由度が複雑に絡み合った多彩な現象を示す点にもあります。通常の金属状態とは異なり、種々の相互作用が競合する「強相関電子材料」では、外部からのほんのわずかな刺激(外場)によって、その磁気的・電気的・光学的物性を劇的に変化させられる可能があり、外場制御によって未知の新しい現象が期待されます。そのような観点から「強相関電子材料」を用いて光誘起相転移メモリーや超高速巨大非線形光学材料の開発にも取り組んでいます。



「強相関電子系物質で新しい電子物性を開拓する」


 電子は、電荷とスピンの自由度を持ち、半導体エレクトロニクスでは電荷のみを、磁気工学ではスピンのみを情報担体として活用しています。「強相関電子系物質」では、スピンと電荷の自由度に加えて、原子に束縛された電子が描く異方的な複数の軌道(電子雲)が第三の自由度として働き、結晶格子を歪めて電気抵抗を高くしたり、磁性や電気伝導に異方性を与えたりすることが期待されます。「スピン−電荷−軌道」の3つ自由度は互いに結合し、その結合の強さは精密な物質設計によって比較的自由に制御することができます。この「スピン−電荷−軌道」の3つが織り成す多彩で多様な複合現象が、電荷の自由度のみを用いている半導体材料には持ち得ない「強相関電子系物質」の潜在的能力・魅力と言えるでしょう。

 我々の研究室では「強相関電子系物質」である遷移金属酸化物に注目し、これに系統的な物質設計を施し、その電子物性を精密に測定することによって、新規電子物性の開拓、およびその物性の解明を目指しています。ここでいう物質設計とは、物質から電子を抜いたり加えたり(キャリアードーピング)することや、電子の運動エネルギーを変化(バンド幅制御)させること、あるいは物質の結晶構造(次元性)そのものを変化させたりすることを指します。

 また、「強相関電子系物質」では、多数の電子がお互いに影響を及ぼしあいながら存在しており、このとき、電子の集団はちょうど分子の集団が固体や液体や液晶の形態をとるように、量子固体−液体−液晶の間を、磁気的・電気的・光学的な性質を大きく変えながら相転移します。研究室では、この電子状態(量子固体−液体−液晶)を、磁場や電場、圧力、パルス光などの外場の印加によって変革する―電子物性の外場制御―を試みています。通常の金属状態とは異なり、種々の相互作用が競合する「強相関電子系物質」では、外部からのほんのわずかな刺激(外場)によって、その磁気的・電気的・光学的物性を劇的に変化させられる可能があり、外場制御によって未知の新しい現象が期待されます。

出典 : 上智大学理工学振興会 会報ソフィアサイテック2002 vol.13

 戻る 

上智大学 物質科学研究室
Copyright © 2004-2017 kuwahara Lab All rights reserved.