互いに相互作用している多粒子系を扱う問題を一般に多体問題と呼び、 難しい問題の代名詞のように使われています。 ニュートンカ学に従う3体系の運動(例えば、太陽、地球、木星の運動)すら 完全に解くことができないということを考えると、 量子力学で扱われる一般の多体問題の難しさは想像できると思います。 このような多体問題を扱う枠組みは、場の理論と呼ばれる無限自由度の量子力学になります。
多体問題の例として、金属中の電子の問題を考えてみましょう。 電子は各々が独立に運動しているのではなく、互いに相互作用しあっています (電子相関)。この効果をきちんと解析することにより、
(Q1)全層の表面でなぜ可視光が反射するのか?、
(Q2)なぜ金属は紫外線に対しては透明なガラスのように見えるのか?、
(Q3)なぜ超伝導がおきるのか?、
等を説明することができます。
現在では、2次元平面内や1次元の線上に電子を閉じ込めることか実験的に可能になっています。 このような低次元系では電子相関の効果は3次元系よりも大きく、 様々な新しい現象か実験で見つかったり、理論で予測されたりしています。
当研究室においては、特に2次元の電子系の性質に的を絞って研究を進めています。 実際の研究テーマは大まかには、
(1)電子間の有効相互作用の微視的な構築、及び、
(2)その相互作用を使った電子系の静的及び動的性質の研究、
という二つになります。
電子相関は、定性的には遠距離相関と近距離相関に分けることができます。 このうち遠距離相関は、電子系に外部電荷を加えると周りの電子がその配置を変化させて、 遠距離から見ると外部電荷が遮蔽されてしまって観測されなくなる、 という現象に深く関連しています。この遠距離相関の理論的取り扱いは比較的容易であり、 それにより上の(Q1)や(Q2)を説明できます。 それに対して、近距離相関は、電子同士が近距離では互いにクーロン斥力で反発しあっている効果 であり、理論的には簡単には取り扱えない問題です。
これまでに、当研究室においては、この近距離相関を短距離型の有効相互作用の形で表現する、 という方向で研究を行っており、電子系のエネルギーなどの静的な性質をよく記述することを 確認しています。現在は、電子系の動的性質(光吸収のスペクトル等)と、 この有効相互作用との関係を調べています。有効相互作用という理解しやすい概念を使って、 複雑な電子系の性質をわかりやすく統一的に記述していきたい、というのが当研究室の目標です。