電子物性研究室(星野研) 本文へジャンプ
研究内容(随時更新)

化学結合や化学反応を支配する陰の主役、それは電子!
最近では、我々の身の回りや自然界を構成する物質世界、物質間どうしの相互作や化学反応が原子や分子レベルで探索・研究されています。一般に、原子・分子の内部状態を探索するには、電子、光、イオン、励起原子などを標的となる原子・分子に入射し、散乱・放出された電子の運動エネルギー分布、運動量分布、またそれらの角度分布などを測定する電子分光法を用いるのが有効な手法です。

加速エネルギーが100 V程度の低エネルギー電子は、量子論的には物質波として考えられ、そのド・ブロイ波長はおおよそ原子・分子のサイズと同程度となります。入射する波の波長と対象となる物体のサイズが同程度の時、もっとも相互作用が大きくなります。低エネルギー電子を生成・制御し、原子や分子に衝突させることにより、顕微鏡では見ることのできない原子や分子(ナノの世界)が見えてきます。電子がなければ分子結合や化学反応は起こりません。表舞台には出てきませんが、電子こそミクロな世界の陰の主役です。




そこで当研究室では、この低エネルギー電子分光実験という立場から原子・分子、特にプラズマプロセス分子や環境分子、生体分子いたるまで様々な標的に着目し、原子・分子衝突過程の実験的な研究を行なっています。最近では、東京理科大学、東京工業大学、高エネルギー加速器研究機構フォトンファクトリー等の国内研究機関、ポルトガル、スペイン、アイスランド等国外の大学とも積極的に共同研究を進め活動しています

低エネルギー電子散乱実験
以下に当研究室で必要な電子散乱実験に関する基礎知識を簡単に示します。少々専門的な内容も含まれますので、質問や疑問がある人は遠慮なくお問い合わせください。なお、星野が担当する「原子衝突物理学(秋学期開講(PHY300)でも説明しますので、関心のある方は受講してみてください。

低エネルギー電子が気相の原子や分子と衝突すると、標的原子分子の内部状態(標的の回転状態、振動状態、電子状態等)に変化を与えない弾性散乱過程(要するに何も相手に影響を与えない過程)と標的にエネルギーを与えることで内部状態を変化させ、電子自身はエネルギーを失う(エネルギー損失といいます)非弾性散乱過程とに大別されます。入射する電子は、標的原子・分子と比較して十分軽いので、低エネルギー領域では、散乱過程の大部分が弾性散乱過程となります。しかしながら、入射電子のごく一部は非弾性散乱を起こす場合もあります。以下に電子衝撃による散乱過程の例を示します。




非弾性散乱とは、標的が分子の場合、回転励起(必要なエネルギーμeV程度、マイクロ波領域)、振動励起(meV程度、赤外線領域)、電子励起・電離(eV程度、紫外線領域)、電子付着(0eV〜eV程度)などがあり、散乱電子の失ったエネルギーΔEの関数として、散乱電子数を計数することにより、散乱過程を区別することができます。

クロスビーム法と微分散乱断面積(Differential cross section; DCS)

我々の実験は、標的である原子分子に電子を入射し、衝突により散乱された散乱電子の角度分布を測定します。クロスビーム法とは、図のようにある方向に入射された電子ビームが、ガスノズルから噴出する標的原子分子と垂直に衝突し、散乱角度θに散乱された電子を検出する方法です。微分散乱断面積(DCS)とは、単位時間、単位面積あたり入射した電子が、標的1個と衝突し、単位時間・単位立体角に散乱される割合に相当します。名前の通り、面積の次元をもっています。
次に、我々が用いている実験装置(電子分光装置)についてご紹介します。上で紹介したような散乱電子の微分断面積を測定する、すなわち原子分子というミクロな世界を覗くためには、既存の顕微鏡では見ることが出来ず、特別な装置が必要です。既製品の装置では、限られた一部分しか見えませんので、装置は自分たちで設計・製作して独自の分析装置を開発しています下に示した装置は、上智大学内で実際に使用されている高分解能電子分光実験装置の図となっています。実験は標的ガスと電子を衝突させるため、真空に排気し周囲の空気を取り除くことが要求されます。その他、安全装置など様々な工夫がなされています。

この微分散乱断面積をすべての立体角(散乱されうる全方向)に積分したものを積分断面積(各散乱過程に対しては、部分断面積)といい、すべての散乱過程の積分断面積について和を取ったものを全断面積といいます。電子散乱のデータセットは、プラズマプロセスなど応用上も重要な基礎データとして注目されています。応用上は、幅広いエネルギー領域に対して、高精度で測定されえた断面積データ、あるいは計算結果が必要となります。当研究室では、これらのデータを整理するためのデータ収集作業も測定とは別に行っています。